いなかの主婦よりもの申す

地方在住いち主婦の気になるニュース論

「帝国」と呼ばれた大企業のお粗末な内情

某大手芸能事務所の幹部と所属タレントたちとの内輪揉めが大きな話題になっています。


当初は反社会的勢力との繋がり云々、ギャランティ授受の真偽云々がメインテーマでしたが、時間が経つにつれその様相はだいぶ当初とは異なってきて、今となっては幹部からタレントへのパワハラの有無が世間の関心の中心になっているようです。


この「世間(マスコミ)の関心」というのが中々厄介なもので、そもそもこんな一企業内の完全なる内輪揉めに関して両者ともが会見をして涙で詫びるというパフォーマンスが本当に必要なのかというところも甚だ疑問です。

最近はこの手の「謝罪会見」を目にする機会がやたら増えましたが、いったい誰に対して何を詫びているのか主旨が分からないことが多いですし、あたかも会見を開くこと自体が一種の禊ででもあるかのように扱う風潮には違和感しかありません。


ともあれ今回、件の事務所の所属タレント2人が独自で開いた会見を目にし、その後事務所が開いた現社長の会見をも目にして、それなりに思うところがあったので取り上げます。



現社長を私がテレビで初めて見たのは中学生の頃です。

当時の中高生の間で人気絶頂だったお笑いコンビの新人マネージャーとして彼らの番組に突如として登場し、リアクションが鈍くボケッとした風変わりなキャラクターでちょくちょくいじられ、笑いをさらっていました。


ちなみに私が一番印象に残っているのは、ブリーフ一丁の貧相な姿で(若い時は今より細く色白で、元アメフト部という経歴が信じられないほどだった)コンビのツッコミ担当に力一杯のビンタを食らわされ、目を白黒させておどおどしている…そんな姿だったので、何年か前に彼が事務所社長になっていると知った時には心底驚きました。

同世代で、若い時分の彼の姿を見ていた人は皆驚いたと思います。

如才ないマネージャーといったタイプにはとても見えず、頑張って良く言っても朴訥とした感じ、悪く言ってしまえば気の利かない木偶の坊的な雰囲気の人で、子供心に「この人マネージャーに向いてなさそうだな、辞めちゃいそうだな」と思って見ていたというのに、それがよもや社長とは。



その後年月を経て、私たち世代が熱狂したお笑いコンビは芸能界におけるいわゆる大御所として現在に至るまで君臨し続けていて、所属事務所の中でも押しも押されぬトップに成り上がりました。

彼らのこれまでの活躍ありきの事務所の興盛ということもあってか、彼らに関わっていたスタッフはほぼ例外なく幹部の座に収まっており、どうやらある種の派閥を築いているようです。

ちなみに現会長は無名の若手だった彼らコンビを見出し、一躍スターダムへと上り詰めるきっかけとなった番組を共に作り上げた功労者であり、さらに現副社長も彼らの元マネージャーです。

言ってみればその大御所お笑いコンビ繋がりの人脈で出来上がっている体制であり、そこには「一時代を築いた彼らと一緒にやってきた」というプライドが色濃く感じられます。

しかし、そういった恩顧人事、義理人事というものは得てして良い結果に結び付きにくいものです。


幹部がプライドを持って企業の運営にあたることは良いことです。

しかし、そのプライドの示し方を誤ると今回のような困った事態を招いてしまう。

自分がマネージメントをしたタレントが芸能界の頂点にいるのも、会社の繁栄も、自分の出世も、全てはそのタレントありきのことで、幹部がいくら有能でいくら社内で偉かろうとも、社員である以上は頂点であることはなく、あくまで脇役なのです。

どこまでいってもメインはタレント。それがタレントの稼ぎで成り立つ芸能事務所の正しい定義です。


しかし長くやっているうちに何か勘違いをして、自らを大御所タレントと同等か若しくはそれ以上の存在であるかのように思い込み、大事な商品であるはずのタレントも自分より下とみれば軽視して手酷く扱う。

起こりがちなことではありますが、これは本末転倒です。


過去の栄光は過去のもの、時代は移り変わります。

タレントの人気は決して不変のものではなく、旬もあり、浮き沈みもあり、だからこそ事務所は常に新たな人材を発掘・育成してスターを輩出し続けなければならない。

そんな立場にありながら所属タレントに気持ちよく仕事をしてもらうどころか、ひとたび不都合が生じれば有無を言わさず圧力をかけて屈服させようとするなんて強引なやり方では、事務所の未来はありません。



会見で社長はしきりと「圧力をかけたつもりはない」「冗談のようなつもりで」といった発言をしていました。

これらは批判を受けて弁明する側(大体の場合批判した側より立場は上)が非常によく使う常套句ですが、コミュニケーションというのは「言われた側が言った側の意図を汲み取れなかった」時点で失敗しています。

だから、大切な人に対してや大事な場面では人間は誤解や曲解をなるべく防ぐべく気を遣って言葉を尽くして、相手に真心が伝わるように丁寧に話をするのですが、この社長はいよいよ事態がややこしくなってきているというタイミングでタレントに対し「不信感しか抱けなくなった」と言わせてしまうような言葉を投げかけるというよもやの行動に出たそうなので、真偽は不明であるにせよこれではまともなコミュニケーションが成り立つとは到底考えにくいです。

立場に差のある者同士では上の人間は殊更に配慮をしなければならないのに、それすら分からないとなればもはや芸能事務所の経営にあたる資質はないと思われても仕方がありません。



立場は確かに人を作りますが、人間の本質はなかなか変わらないのも事実。


会見を拝見するに、社長は反省の気持ちはお持ちであるように見えるものの、ご自身や自社の企業体制が周囲からどう見られているか等の客観性や、時代に合わせる柔軟性、経営理念といった大事な部分が未だ圧倒的に欠けているようにお見受けしましたので、まずはご自身をよく顧みてお勉強をされ、その上で今後の会社の建て直しを自ら主導出来るという自信がもしお有りなのであれば、今回社長の陰に隠れて全く姿を見せなかった会長さんと共に誠心をもって一から真摯に取り組まれるべきと思います。

それこそパンツ一丁でテレビに出ていた頃の初心を思い出して。



それにしても社長は、まるで「謝罪会見」だから謝りさえすれば事足りるとでも考えていたかのように、質疑応答で丸裸にされる準備も覚悟もなしに身一つでノコノコ出てきてしまったウッカリ感がすごかったです。

そして一旦会社として正式に下した決定をあたかも所属タレントの叱責と世間の批判のムードに安易に屈したかのように覆してしまうという迂闊さも含め、かつての彼の印象そのものの「体育会系の愚直さ」が感じられて、あのダラダラとした実のない会見にも何だか懐かしいような気持ちを覚えてしまい、妙な気分でした。


最後に、会社の対応の不手際とタレントの虚偽申告に対するペナルティ。

これらはあくまで別個の話ですから、名のある企業として恥ずかしくない対応をして欲しいものです。
あと近年特に目立つ政治へのすり寄りも気持ちが悪く、何より偏った政治色は笑いの最大の妨げになると思うのでこの機会にそちらもご一考下さい。