いなかの主婦よりもの申す

地方在住いち主婦の気になるニュース論

「言わねばならないこと〜防空演習を『嗤った』男・桐生悠々」

明けましておめでとうございます。

本年も何卒よろしくご贔屓のほどを。



昨年末にテレビ朝日系列で順次放送された、北陸朝日放送制作のドキュメンタリー作品「言わねばならないこと〜防空演習を『嗤った』男・桐生悠々」を見ました。


タイトルを目にした途端に「これは見なければいけないものだ」と感じ、当初の予定をひっくり返して全編かじりつきで見ました。

奇妙に作られた開戦に至るまでの国内の熱狂と言論統制という戦前〜戦中の一種異様な苦境の中で、時代と権力と愚かな民衆に対して死ぬまで警鐘を鳴らし続けた武骨なジャーナリストの思想と生き様がテーマ。



考えさせられることがあまりに多く、

いつの世でも政治家だの軍人だの力を持つ者の罪深いことは変わらず、

人間の愚かさも変わらず、

組織の内にいては大勢と戦えないことも変わらず、

冷静に客観的に、かつ批判的に自分と社会を見つめる目を持つことの難しさも変わらず、

そして彼の深く嘆いた時代と同じ愚かな渦の中に再び巻き込まれようとしている今まさにこのタイミングにおいても、危機感を持つ者のいかに少ないかということへの無念さと悲しみと憤り。

それらがわっと押し寄せて涙が止まらなくなりました。

そして作り手はもちろん、桐生悠々の子孫らにまでしっかりと浸透するジャーナリズムに対する真摯な姿勢というものを目の当たりにし、何か眩しいような気持ちになりました。



出来るなら一人でも多くのひとがこの作品を見て、自分の目や手で真実をつかみ取ることがどれほど難しいのか、ぼうっとしていても無数に飛び込んでくる情報の中には決して真実は無いのだということを知って欲しい。

数多ある情報に徒らに振り回されるのではなく、常に批判の目を持って頭で考え、自らを律して行動することのいかに大切であるかを、改めて痛感させられました。



こうした番組が年末というタイミングに挙って放送されたのはとても素晴らしいことだと思います。

わたしの住む地域での放送は30日午前10時頃からと(桐生悠々の生涯に関係性の深い地域であることもあってか)、まだ良心的な時間帯でした。

しかし首都圏や関西圏では午前4時代からの放送と、何に遠慮しているのか疑問になるほど非常に弱腰の情けない有様だったようです。

一人でも多くの人に見てもらおうという気持ちなど皆無で、「賞も取って話題だというから仕方なく(それでも必要以上に忖度して)放送」といった扱い。


いわゆるテレビのゴールデン帯には視聴率稼ぎの為にお金をかけて制作した特番の数々を放送したいのは分かりますが、内容的にこの作品のクオリティやメッセージ性を上回る良作などあろうはずもなく、せめてもう少し常識的かつ在宅率の高い時間帯でより多くのテレビ局(特にキー局)に放送して欲しかったなあと残念に感じました。

今回の放送の反響でさらなる放送地域の拡大や再放送、再々放送といった流れになっていくことを切に望みます。



正月休みにわざわざ重いドキュメンタリーなんて見たくないと考える人もいる一方、せっかくの休みなのにうるさいだけで中身のないバラエティばっかりでテレビにはうんざり、なんて人も少なからずいます。

家族や親戚の集まる貴重な機会に、こうした番組を見ながら普段は取り上げないテーマで会話や議論をしてみるというのもとても有意義だと思うのですが、いかがでしょうか。