いなかの主婦よりもの申す

地方在住いち主婦の気になるニュース論

地方医師残業「上限年2千時間」案


中年と言われる年齢に足を突っ込んで1年あまり、もう体のあちこちにガタが来はじめています。

ここ最近、健康診断で「要精検」と指摘されることが増え、その結果定期的に検査だの検診だので病院に足を運ぶ機会も不本意ながら増えました。


私がかかっているのは主に、市の医療センターです。

自宅から辛うじて歩いて行ける距離にあり、主要な診療科は大体揃っていて、通う上での利便性が高いため。

それまで地域医療の中枢だった市民病院がリニューアルする形で、2年ほど前に立派な姿でお目見えしました。


ここがまあ…本当にいつも混んでいる。


定期的に足を運ぶようになり、だいたいひどく混雑する曜日、時間が分かってきてからは可能な限りそこを避けて予約を取るものの、それでもまず空いていることはありません。

ひどい時には2時間以上待たされます。


首都圏の主要な大学病院とかなら話は分かるのですが、こんな辺鄙な片田舎の、人口もたった数万程度の小さな市の総合病院レベルでこの混雑ぶり…と当初は驚きました。


でもその理由は分かりやすくて、病院の中にいるのはどこを見渡しても高齢者ばかり。スタッフを除けば私のような「若手」はごくわずかで、待合スペースで座っていると変に目立ってジロジロ見られてしまう始末。


そんな多数の高齢者の対応にあたるのは、診療科ひとつ当たり平均1〜2人の医師です。

しかも常勤の医師は少なく、外部から応援に来てもらってやっとどうにか回しているといった状況のよう。


医師に限らず、慣れない自動受付機の操作に手こずる高齢者の対応にあたる事務スタッフ、「薬をもらいに来ただけ」と言って全ての段取りをすっ飛ばし、いきなり「診察中」の診察室のドアを開ける高齢者を慌ててなだめる看護スタッフ…


はっきり言ってどの部門においても目を覆いたくなるほどの人手不足です。

(そもそも、その辺を少しでも補完すべく導入されているはずの最新の病院のシステムが、今の高齢者のニーズに全く合わず、上手く機能していないどころか手間が増えるばかりという皮肉な問題は別として)


増え続ける高齢患者という需要に対して、医師の絶対数が足りない。

賃金の低い田舎であればあるほどこの傾向が顕著なのは周知の事実なのですが、いざ現実の状況として目の当たりにすると、けっこう衝撃でした。


人材不足自体は医療分野に限ったことではないですが、こと「医師」という業種に関しては、資格取得に至るまでに桁違いの大金が必要という点において、他業種よりもよほど深刻度が高そうです。


ある程度経済的に余裕のある家の子女が目指す職業であるという前提で考えると、問題なのは、いま日本では「そこそこのお金持ち」層が消えつつあり、「だいぶお金持ち」層以上か「わりと貧乏」層以下の二極化が進んでいること。

「わりと貧乏」以下の家ではまず子どもを医学部に進学させること自体難しいですし、「だいぶお金待ち」な家で苦労を知らずに育った子どもが、過酷極まりない労働環境と分かっている医師という仕事をあえて目指そうとするとはあまり思えません。


加えて出生率の低下も加速度を増すばかり。なり手は減る一方で、この先も日本の医師の数が増えることはまず無いでしょう。

では、この需要と供給のアンバランスを一体どうしていくべきなのか。


実はこれは私自身も該当することなのですが、この国の昨今の医療はいささか「過剰」ではないでしょうか。

一見健康だし本人に自覚症状もないのに、健康診断でほんの少し正常値を超えただけで、もう「病気です」と言わんばかりに検査や定期的な通院をせっつく。


受け手としては、きっとそう大したことはないんだろうなあと思いつつも、どこどこが良くないんだと医者に言われればやっぱり怖いし、自分から勝手に通院を中断したりすることはしにくい。

そんな、本当はさほど必要でない医療を過剰に供与されている人が、高齢者含めとても多い気がしているのです。


望んでそれを受けている人もいるので、一概に悪いことであるとは言い切れません。

ですが、各種検診をマメに受けるのがさも当然であるかのように世間に喧伝し、「要注意以上病気未満」の人をいたずらに大量発生させて患者として囲い込む…

もしも目先の利益の為にこんなことが横行しているとしたらそれは、結果的に医療業界は自分で自分の首を絞めているとしか思えません。

まず手始めにこうした「未病の患者」を減らしてみるだけでも、状況は変わるのではないでしょうか?


もちろん例外もいますが、基本的に医師という仕事を志す人、従事している人は、頭脳や技術が優れているだけではなく、奉仕精神あふれる人格者であろうと私は考えています。


やたら持ち上げて特別視するのはいただけませんが、それでも休憩すらまともに取れず診察に追われ、休日返上で頑張っているような勤務医の姿には頭が下がります。

そんな彼らが今よりもさらに酷使されてしまう方向にむかうことは、間違っているとしか思えないのです。


政治家の皆さんには、自分にお金と票を落としてくれるお取り巻きの方々に愛想を振りまくばかりでなく、少しは自分の頭で物事を考えて欲しい。


地方の多忙な現役医師が少しでも長く健やかに任務に従事出来るよう、まともな形で議論を尽くし、より良い労働環境が整えられることを切に願います。