貧すれば鈍する
登録していたことさえすっかり忘れた頃に、市から臨時職員登用の話がきました。
職種は第一希望のものではなく、本来であれば資格職。私はその資格自体は持っておらず経験もないのですが、別の所持資格を目に留めて声を掛けたとのこと。
勤務するにあたり資格は必須ではなく、実際にいま市内でその職にあたられている方の半数ほどは無資格なのだそうです。
興味がないわけではなく、自身の年齢とスキルを考えれば多分に有難いお話ではありましたが、諸事情考慮の上お断りしました。
その仕事は、ひと昔前なら厳しい選抜をくぐり抜けた一握りの人しかなれなかった専門職です。
なのに現状「資格を問わない」としているのはなぜかと言えば、有資格者をまっとうな給料で安定雇用する予算がないから、安い労働力でまかなえるよう都合良く枠組みを変えただけなのでしょう。
学生時代、その仕事に就くために資格を取ったのにほとんど求人がなく、泣く泣く諦めた友人がいました。
あれから二十年経ったいま、その仕事の門戸が「無資格可、県最低賃金の非正規職員」として開かれている現状に彼女は、有資格者たちは何を思うのか。
介護の世界なども同様だと思うのですが、もともと資格が必須であった専門職の間口を政治や経済の都合で安易に広げるようなことをすれば、質の低下に繋がるのは当然です。
必死にお金と時間をかけて取得した資格の価値と有資格者のプライドを簡単に奪ってほしくありません。
正直、私のようなポンコツにそんな仕事を振ろうとするなんて逆にバカにするのもいい加減にしろと言いたい。
予算もなく人手も足りない、だからやりがいというエサに食いつく善人の労働力を安く緩くこき使おう、こういう狡い考え方から脱しないから状況が悪くなる一方なのです。
未来を整えるための投資と考えて、まずは資格や勤務内容に見合った待遇と安定雇用を希望者全員に与えてみるぐらいのことを思い切ってしてみたらどうでしょう。
「痛みを伴う改革」とか何とか言って結局その痛みを一手に引き受けたのは優しく正直な国民だけです。
結果著しい経済格差が生まれ、貧すれば鈍するで国民全体のモラルや民度の低下も急加速中。
政治家や官僚や正規公務員は自分たちの既得権益は譲らないくせに、理由のつけやすいところからはいとも簡単にあらゆるものを取り上げます。
しかしその場凌ぎの雑なやり方は、いつか必ず自分たちの首を絞めることになるということを覚えていてもらいたいものです。
あの時言うだけ言って何の「痛み」も感じなかった層の方々にそろそろツケを払って頂きたい。
まさか今回の登用話も就職氷河期世代救済の一環だったのか?
最低賃金の臨時職員を救済と考えるほど高慢低脳とはさすがに思いたくないですが…何せお役所連中(とその上)のやることは分かりません。
私もこんな屁理屈や我儘ばかり言ってのうのうとしていられるような余裕ある身分ではありませんので、いい加減もう少し稼ぎを増やす努力をしなければ。
夫からは常々「必死さが足りない」と言われ反省しきりですが、同世代を見渡しても「必死に何かに縋りつく根性」を持ち合わせている人はあまりいない。あるのは諦観ばかり。
もうだいぶ鈍っています。